コロナの影響で売上減少や資金ショートを予測し自主廃業という苦渋の決断をしている会社が出始めています。
そもそも人手不足を背景とする人件費の高騰や消費増税による需要の落ち込みなどから既に経営の圧迫がされている中小企業は多くそこへ今回の新型コロナウイルスが直撃しました。政府は金融機関による資金繰り対策や厚生労働省所管の雇用調整助成金などの支援を行っていますが先行きが不透明な状態でまだ余力のある段階で一区切りつけようとする経営者も少なくないようです。
そこでこの後は法人が自主的な廃業をする際の流れを主に税務的な手続きを中心に紹介をしていきます。なお今回のモデルとなる法人は日本の大多数を占める家族経営的な少人数の法人を前提としてより実務に沿う簡易的な手続きを中心として述べていきます。
1、手続き
法人が自主的に解散及び清算を行う際の手続きは概ね以下の順によります。また株式会社と合同会社等の持分会社とは手続きの面で異なるものがありますが基本となる株式会社を中心に進めます。
- 株主総会等による解散の決議
- 法務局への解散の登記
- 税務署や県税事務所等への解散の届出
- 税務署や県税事務所等への解散申告
- 残余財産の分配
- 税務署や県税事務所等への清算申告
- 法務局への清算結了の登記
- 税務署や県税事務所等への清算結了の届出
2、解散
(1) 株主総会等による解散の決議
株式会社は株主総会の解散決議によっていつでも解散することができます。ここで解散の日及び清算人を決めます。なおこの決議は特別決議によりますが合同会社では総社員の同意が必要になります。またここで注意すべき点として決議をした解散の日の翌日以後は一切の営業活動が行えないことになるので進行中の仕事などを考慮して日にちを決める必要があります。
(2) 法務局への解散の登記
上記で決議した内容を法務局へ登記します。
(3) 税務署や県税事務所等への解散の届出
所轄税務署及び県税事務所等に解散した旨の届出書を提出します。ここで上記(2)が済んでいる履歴事項証明書の添付が必要になります。
(4) 税務署や県税事務所等への解散申告
所轄税務署及び県税事務所等へ法人税等の申告を行います。ここでの事業年度は通常の事業年度開始日から解散の日までを1事業年度とみなして確定申告を行います。申告期限は解散の日の翌日から2か月以内となります。
補足
解散の日の翌日以後は一切の営業活動を行うことができません。この期間で会社に存在する財産(資産)及び債務(負債)を処分及び整理することになります。従いまして金融機関からの借入がある場合には事前に金融機関との話し合いが必要なケースも出てくるでしょう。
またより正確な手続きとしては当社に債権を有する事業者がいないか一定期間を設けて官報などへの公告が必要になりますが小規模な会社の場合には省略している場合が多いと思われます。
3、清算結了
(1) 残余財産の分配
財産債務の清算手続きをもう少し具体的に説明すれば会社の貸借対照表に記載されている資産で現金化できるものを現金化しその現金により同じく貸借対照表に記載されている負債の支払をするということになります。その結果貸借対照表に残っているのは理論上純資産(資本金とこれまでの利益の累積である利益剰余金の合計)及びこれに対応する現預金のみとなります。
そしてこの純資産を株主に支払って貸借対照表には何も残らないことになるわけですがこの残った純資産を株主に支払う行為を「残余財産の分配」と言います。
(2) 税務署や県税事務所等への清算申告
財産や債務の処分を行う過程で売却損益や評価損益などが生じます。これらの一連の取引について通常の確定申告と同様に法人税等の申告が必要になります。
これについては解散の日の翌日から1年を経過する日までの期間に係る申告を「清算中の事業年度に係る申告」と言い上記の残余財産が確定した後に行う申告を「残余財産の確定日に終了する事業年度に係る申告(清算確定申告)」と言います。
従って小規模な会社では解散から残余財産の分配までに1年以上の期間を要することは稀であると思われるので清算確定申告のみとなる例が多いと考えられます。
なお清算確定申告は残余財産が確定した日(貸借対照表に純資産と現預金しか残らなくなった日)から1か月以内とし又その1か月の間に残余財産の分配が完了する場合にはその完了の日の前日が申告期限となります。
(3) 法務局への清算結了の登記
法務局に清算結了した旨を登記します。ここでは残余財産分配後の貸借対照表(資産及び負債並びに純資産すべてが0円)が必要書類となります。
(4) 税務署や県税事務所等への清算結了の届出
所轄税務署及び県税事務所等に清算結了した旨の届出書を提出します。ここで(3)の登記が済んでいる閉鎖事項証明書の添付が必要になります。