【相続税の計算方法を徹底解説】課税価格・基礎控除・税額控除まで全体像をわかりやすく解説|コラム

2025.10.06

相続

相続税の計算方法を徹底解説|課税価格・基礎控除・税額控除まで全体像をわかりやすく解説

大見税理士事務所(東京都目黒区・世田谷区・自由が丘/相続・暗号資産・法人税務に強い税理士)が、相続税の計算の全体像を初心者にもわかりやすく整理します。課税価格の算出方法から基礎控除、2割加算や各種税額控除まで、相続税計算の仕組みを具体例を交えて詳しく解説します。

※本記事は制度の概要を一般向けにわかりやすく整理したものです。細部の要件や例外については割愛しております。個別事情により取扱いが異なりますので、詳細は個別にご相談ください。2025年9月現在の法令に基づいています。

相続税計算の全体像

相続税の計算は、大きく分けて次のステップで行われます。

 一つ目、課税価格の計算。二つ目、 課税価格の合計から基礎控除を差し引く。三つ目、 法定相続分で分割したと仮定して税率をかけ、相続税の総額を算出。四つ目、 各相続人の実際の取得分に応じて税額を按分・調整。

この流れを理解することで、相続税の仕組み全体がつかめます。

課税価格の計算方法

課税価格は、相続税の税率をかける基準となる金額です。計算の流れは次のとおりです。

本来の相続財産(現金・土地・株式など

みなし相続財産生命保険金や退職金、相続税の対象になる場合あり)

非課税財産の控除墓地、生命保険金の非課税部分など

債務控除・葬式費用の控除(借入金や葬儀費用を差し引く)

生前贈与加算(相続開始前の贈与を加算)

この結果、最終的に「課税価格」が算出されます。

本来の相続財産 + みなし相続財産 - 非課税財産 - 債務控除 + 生前贈与加算 = 課税価格

これを相続人全員分行い、合計したものが「課税価格の合計額」です。生前贈与以外については軽く前回の記事でも解説をしております。

生前贈与加算の仕組み

贈与と相続の関係

相続税は「死亡による財産移転」に課され、贈与税は「生前の財産移転」に課されます。つまり、被相続人が生前に財産を贈与すれば贈与税、亡くなった後に財産を取得すれば相続税の対象となります。

ただし、相続税法は「相続税が本税、贈与税は補完税」と位置づけているため、生前に贈与した財産についても相続税で課税し直す仕組みを持っています。これが生前贈与加算です。

生前贈与加算の対象期間

相続開始前 7年以内の贈与 が対象(令和6年改正後)

経過措置により当面は「3年以内」の贈与も適用されるケースがあります

適用条件(3つ)

ひとつ目に相続開始前3年以内(当面は3年)の贈与であること、2つ目に被相続人本人からの贈与であること、3つ目に相続や遺贈によって財産を取得した者であること

この3条件を満たす場合に加算されます。逆に、3年を超える贈与や他人からの贈与は対象外です。

特殊な扱い(亡くなった年の贈与)

贈与税の申告は翌年に行いますが、亡くなった年に被相続人から贈与を受けた場合は、生前贈与加算の対象となり、贈与税は非課税、相続税に加算される形になります。

相続税の総額を求める流れ

基礎控除の金額と計算式

相続税の計算では、すべての遺産に税金がかかるわけではありません。相続人の生活を守るために「一定額までは非課税」とする制度があり、これを基礎控除と呼びます。

基礎控除額は 相続税法15条 に基づき次の式で計算されます。

3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)

例 法定相続人が4人の場合
600万円 × 4人 = 2,400万円
これに3,000万円を加えて 5,400万円 が基礎控除額です。

課税価格の合計額から基礎控除を差し引いたものが「課税遺産総額」となります。

法定相続分による計算方法

相続税は、遺産を法定相続分で分けたと仮定して計算します。

課税遺産総額を法定相続分で分割し、その金額に超過累進税率を適用して各人の税額を計算し、全員分の税額を合計して、相続税の総額を求める

この流れでまずは「相続税の総額」を算出します。

各人ごとの納付税額

総額が求まったら、次は各人の実際の取得分に応じて税額を振り分けます。その上で、控除や加算などの調整を経て最終的な納付税額が決まります。

相続税の2割加算

2割加算の趣旨

財産の取得に「偶然性が高いケース」には、通常より多く課税される仕組みがあります。これが相続税の2割加算です。

通常 親 → 子 → 孫 と順に財産が移る場合、それぞれ相続税が課される
例外 遺言により「親 → 孫」に直接相続した場合、本来2回かかるはずの相続税が1回で済んでしまう

このような場合に2割加算が適用されます。

加算対象者

一親等の血族(子)、代襲相続人(孫)が対象外配偶者も対象外

上記以外の孫や兄弟姉妹などが加算対象者

養子の場合は注意が必要(代襲相続人である場合は対象外だが、それ以外は対象になる)

各種税額控除の解説

相続税には最大7種類の税額控除があります。これらを適用することで、最終的な納付税額を減らすことができます。

配偶者の税額控除

配偶者は「共に財産を築いてきた存在」であるため、相続税の負担を大幅に軽減できます。一旦は課税価格に含めて税額を算出しますが、最終的に配偶者が取得した財産については税額控除を適用し、原則として税額ゼロにすることが可能です。

配偶者は「2割加算」の対象外です。

贈与税額控除(暦年課税)

被相続人が生前に贈与した財産について、相続開始前7年以内の分は「相続財産に持ち戻す」必要があります(相続税法19条・21条の4)。

しかし、既に贈与税を納めている場合、そのまま相続税を課すと二重課税になってしまいます。これを避けるために、支払済みの贈与税額を相続税から控除できる仕組みが暦年課税の贈与税額控除です。

未成年者控除

未成年者が相続や遺贈で財産を取得した場合、成人になるまでの年数に応じて一定額を相続税から控除できます。

適用対象 相続開始時に20歳未満の者

控除額 1年につき10万円を相続税から控除(相続税法19条の2)

趣旨 未成年者の生活や学費を保障するための制度

障がい者控除

障がい者が相続や遺贈で財産を取得した場合、一定年齢に達するまでの年数に応じて相続税額を控除できます(相続税法19条の3)。

一般障がい者 1年につき10万円

特別障がい者 1年につき20万円

判定基準 相続税法施行令5条、所得税法施行令25条等に基づく

相次相続控除

制度の趣旨

短期間に相続が続けて発生した場合、同じ財産に二重に相続税が課されるのを調整するための制度が相次相続控除です(相続税法20条)。

具体例

父が亡くなり、子が財産を相続 → 子が相続税を納付
その直後(10年以内)に子が亡くなり、今度は孫が財産を相続 → 孫にも相続税が課される

このように同じ財産に二度課税されるのを避けるため、2回目以降の相続では前回納付した相続税の一部を差し引くことができます。

要件

1回目の相続で相続税を負担した人が、10年以内に亡くなる

その人から財産を相続した次の相続人が控除を利用できる

外国税額控除

制度の趣旨

日本に住所がある人(無制限納税義務者)は、世界中の財産に日本の相続税が課されます。しかし、外国にある財産に対して現地でも相続税や遺産税が課されることがあります。

同じ財産に日・外国両方で課税される「二重課税」を調整するために設けられた制度が外国税額控除です(相続税法21条の9)。

対象

日本で無制限納税義務者として課税される人

対象財産は国外にある財産で、外国で相続税や遺産税に課税されたもの

内容

外国で納付した相続税額を、日本の相続税から一定限度まで控除できます。

贈与税額控除(相続時精算課税)

制度の仕組み

通常、贈与は暦年課税ですが、一定の条件を満たすと「相続時精算課税制度」を選ぶことができます。この制度では、贈与時に一律20%の贈与税を納め、その後相続が発生した際に贈与財産を相続財産に合算して最終的に相続税で精算します。

二重課税を防ぐため、贈与時に支払った贈与税額を相続税から差し引けるのが贈与税額控除(精算課税)です(相続税法21条の8)。

適用対象

相続時精算課税を選択して行った贈与(特定贈与財産)

その贈与を受けた相続人・受贈者

控除内容

相続税計算において、贈与時に支払った贈与税額を相続税額から控除できます。

まとめ|相続税計算の流れを整理

相続税の計算は複雑ですが、次の流れを理解すれば全体像が見えます。

  1. 課税価格を算出する(本来の財産+みなし相続財産-非課税財産-債務+生前贈与加算)
  2. 課税価格の合計額から基礎控除を差し引き、課税遺産総額を求める
  3. 法定相続分で分けたと仮定し税率をかけ、相続税の総額を算出する
  4. 実際の取得分に応じて税額を振り分け、2割加算や各種控除を適用する

控除制度には、配偶者控除・未成年者控除・障がい者控除・相次相続控除・外国税額控除などがあり、適切に活用すれば相続税の負担を大きく軽減できます。

ご相続でお困りの際は相続に強い相続専門税理士事務所の私たちにご相談ください。

用語の意義一覧

課税価格  相続税の計算において税率をかける基準となる金額。「本来の相続財産+みなし相続財産-非課税財産-債務控除+生前贈与加算」で算出される(相続税法13条)。

本来の相続財産  被相続人が所有していた現金・土地・建物・株式など。

みなし相続財産  相続開始時に直接相続したわけではないが、実質的に相続財産と同様に扱われる財産。例 生命保険金、退職手当金(相続税法3条1項)。

非課税財産 相続税の対象外となる財産。例 墓地や仏具(相続税法12条)、生命保険金や退職金の非課税枠(相続税法12条の2)。

債務控除  被相続人の借入金や未払金などの債務、葬式費用を相続財産から控除できる仕組み(相続税法14条)。

生前贈与加算  相続開始前7年以内(令和6年改正以降)の贈与を相続財産に加算する制度(相続税法19条)。

課税遺産総額  課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いた金額(相続税法15条)。

基礎控除  相続人の生活保障のため、相続財産のうち一定額を非課税とする制度。計算式は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」(相続税法15条)。

法定相続分 民法で定められた相続人ごとの取り分割合(民法900条)。

相続税の総額 課税遺産総額を法定相続分で分割し、超過累進税率を適用して各相続人の税額を計算し、それを合計した金額(相続税法16条)。

相続税の2割加算  直系卑属や配偶者以外の者が相続した場合、算出税額に2割を加算する制度(相続税法18条)。

配偶者の税額控除  配偶者が取得した財産に対応する相続税額を軽減・免除する制度(相続税法19条の2)。

贈与税額控除(暦年課税)  相続開始前7年以内の贈与について、既に納めた贈与税額を相続税から差し引く制度(相続税法21条の4)。

未成年者控除  未成年者が相続で財産を取得した場合、20歳までの年数×10万円を控除(相続税法19条の2)。

障がい者控除  障がい者が相続財産を取得した場合、85歳までの年数に応じて控除。一般障がい者は1年につき10万円、特別障がい者は20万円(相続税法19条の3)。

相次相続控除  10年以内に連続して相続が発生した場合、前の相続で既に課税された財産に対して二重課税を調整する制度(相続税法20条)。

外国税額控除  国外財産に対して日・外国両方で課税された場合、外国で納めた税額を日本の相続税から控除(相続税法21条の9)。

贈与税額控除(相続時精算課税)  相続時精算課税制度で贈与を受けた場合、贈与時に支払った贈与税を控除(相続税法21条の8)。

記事作成者 税理士 大見 光男

1982年 東京都大田区・六郷土手にて生まれる
2004年 日本大学卒業
2013年 大田区の会計事務所にて、中小法人・医業・不動産所得の申告・節税対策を担当
2017年 税理士登録。大見光男税理士事務所を開業
2018年 著書『だいたい3分でわかる仮想通貨の税金の話』出版
2022年 病気療養のため一時休業
2025年 税理士に再登録し、「大見税理士事務所」を再スタート

保有資格

税理士(税理士登録番号 156268)

セミナー

サンワード貿易株式会社 仮想通貨税金セミナー(2019年10月)

仮想通貨節税セミナー「法人化のメリット・デメリット」(2018年10月)

サンワード貿易株式会社「知っていると知らないとじゃ大違い!!」仮想通貨税金セミナー(2018年10月)

一般社団法人日本マイニング協会主催 節税が投資につながる?!プロに聞く!暗号通貨投資と節税セミナー(2018年8月・9月・10月)

税理士による仮想通貨の確定申告セミナー(2018年1月)

取材

株式会社KADOKAWA「ASCII.jp」取材(2018年2月) 

税理士ドットコム 取材(2018年10月)

書籍・寄稿

『税経通信』1月号 特集(税務経理協会)「仮想通貨の基礎知識と所得計算実務」(2018年12月)

『だいたい3分でわかる仮想通貨の税金の話』(ぱる出版)」(2018年10月)

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